犯罪が起こりにくい環境作りと自分でできる防犯対策
空き巣や居空きなどの侵入窃盗、さらには侵入強盗やその他凶悪犯罪が増加する中、さまざまな防犯グッズやアイテム、防犯対策のシステムなどが提供されています。しかし実際に防犯対策を始めようとすると、どこから手をつけていいのか、膨大な投資が必要になるのではないかなどの疑問・心配から二の足を踏むケースも少なくありません。そこで今回は、自分でできる防犯対策についてご紹介します。
防犯対策を行う上で必要なのは、詳しい知識ではありません。防犯のノウハウ、知識、経験などどれをとっても、防犯を専門にしているプロに敵いませんし、実施方法などはお任せするのがベストなのは当然でしょう。しかし、すべてを丸投げしても最大の効果が得られるとは限りません。なぜなら守りたいのは自分自身であり、自らの家族だからです。自らが真剣に向き合わないかぎり、効果は薄れてしまうのです。
では最も重要なことは何かといえば、防犯に対しての意識を向上させること、つまりは「心がけ」です。女性の一人暮らしや高齢世帯が危ないという意識があれば、女性や高齢者だけで住んでいることをわからせるような行動にリスクがあると思うはずです。女性用の洗濯物の干し方、外から見えるカーテンの色やデザインの選び方、表札の出し方も違ってくるでしょう。風が気持ちよいからと窓を開けたまま就寝したり、ゴミ出しのわずかな時間だからと無施錠で外出したり、それらも不用意なことだと気づけるのではないでしょうか。
安心できる毎日を過ごすためにも、日ごろからの防犯に対する意識と心構えを持ち、身のまわりや自宅の防犯をしっかり実践することを心がけましょう。もちろん防犯のプロではありませんから疑問や不安も出てくるのは当然です。防犯グッズを買ったもののうまく取り付けができないとか不備もあります。そんな時は遠慮なくプロに助けを求めてください。防犯の意識が高ければ高いほど、プロは期待以上の答えを出してくれる存在なのです。
全国各都道府県の警察では、犯罪発生マップを作成しています(※作成していない都道府県もあります)。それらを見ると、往々にして複数の犯罪が集中して発生している特定のエリアを認めることがあります。これには理由があって、「日常生活理論(ルーティン・アクティビティ・セオリー)」という環境犯罪学における考え方によって、次の3つの条件がそろったときに犯罪が起こりやすくなると言われます。
(1)犯罪行為をもくろむ者
(2)犯罪行為の対象となる標的
(3)監視者の不在
日常生活理論にしたがえば、犯罪者、標的、監視者の不在といういずれかの要素を取り除けば、犯罪が起こりにくいというわけです。「犯罪行為をもくろむ者」を社会全体から生まれないようにする、もしくは失くすのは個人では難しいことかもしれません。一方で、犯罪行為の対象となる標的にならないこと、監視者を存在させることは、できないことではなさそうです。
ただ、犯罪行為の対象となる標的にならないこと、監視者を存在させることは、それぞれ性格が異なります。標的にならないことは、自分と自らの家庭の問題で、監視者を存在させることは周囲を含めた環境の問題です。先に挙げた犯罪が頻発している特定のエリアの課題は、そのエリアにおける標的の集中というよりも、「監視者不在」の可能性が考えられます。
そこで、次は、犯罪行為の対象となる標的にならない自身の行動と、監視者を存在させる環境づくりについて考えてみましょう。
自分だけでもできる防犯対策
犯罪の標的にならないこととは、つまりは防犯対策そのものです。戸締りをするなどの防犯意識を持った次に行う、自らできるレベルの高い防犯対策を挙げてみましょう。
犯罪が起こりにくい環境をつくる地域防犯
犯罪を生まないためのもう一つの方法として、監視者を存在させる方法について考えてみましょう。犯罪行為をもくろむ者は、誰かに見られていることを嫌います。そこで犯罪の発生を防ぐために、警察官が巡回し、リスクの高い場所には警備員や防犯カメラなどを配置することが常となっています。ただ、監視者となるのは、そのようなプロだけではありません。犯罪を抑止するための監視者には地域住民も役目を果たすことができるのです。
犯罪抑止において、「窓割れ理論」というのがよく使われます。1枚の割られた窓ガラスを放置していると、さらに割られる窓ガラスが増え、いずれ街全体が荒廃してしまうという、アメリカの犯罪学者ジョージ・ケリング博士が提唱した理論ですが、そういった小さなことも見逃さない環境を「領域性」といい、その環境をつくることを「領域性の確保」といいます。防犯環境設計の考え方のひとつで、自分たちのテリトリー内に部外者が入り込みにくい雰囲気を形成することをいい、犯罪行為をもくろむ者がそこで犯罪を起こすことを躊躇せざるを得ない環境をつくることで、犯罪抑止に有効な手段となります。
言葉は難しいですが、実際は決して困難なことはなく、たとえば、自宅の敷地内を整理整頓し、家屋の破損個所などはきちんと修理し、植木などの手入れを行い見通しをよくすることなど、よく手入れされた街の一部として行動することが領域性の確保につながります。地域の活動として、火の用心や防犯パトロールなどのボランティアが行われる例もあります。
実際、それらを意識せずとも、地域全体が整えられ、住人同士が挨拶を交わし合うようなコミュニティでは、見慣れない不審な人物がうろついていれば自然と目につくでしょうし、犯罪をもくろむ者たちも、うかつに悪いことはできないはずです。
何も特別なことを始めるのではなく、道端にゴミが落ちているのを見つけたら片付ける、近所同士では挨拶を交わす、地域のイベントには無理のない範囲で参加して顔見知りを増やす、など些細なことを少しずつ積み重ねることが大切です。日々の生活のなかで、自分にもできる小さな行動を意識することが大きな防犯活動の一歩なのです。
また、賃貸物件を探す方にとっても、この領域性の確保は重要な要素です。防犯を重視する方は、物件に防犯カメラが付いているか、オートロックかという設備も大切ですが、街全体が監視者となりうる雰囲気をもった「領域性が確保された環境」という視点から物件探しをするのもよいかもしれません。